本10:タルト・タタンの夢
あらすじ
小さなフランス料理屋「ビストロ・パ・マル」。シェフを務める三舟は、侍のような風貌をした変わり者。
他にも、副料理長の志村、ソムリエ 金子、ギャルソン 高梨が揃い、お店を盛り上げる。小さいお店ながらも料理の評判は良く、常連客も着くほど。
お客の中には、悩みを持つ物やちょっとした事件を起こす人も。
そんな時、シェフ三舟たちの鋭い洞察力で解決に導くという、ミステリーとグルメを掛け合わせた小説。
感想
読むきっかけは、先日投稿した本9:サクリファイスの作者(近藤史恵さん)が書いた本だった事。
グルメ・ミステリーに興味がある訳では無かったが、普通に楽しめた。
良かった点は、まず作中の料理描写が秀逸な所。思わずお腹がなる。フランス料理を良く知らない自分でも容易にイメージ出来る描写で書かれている。
これは、著者の手腕が大きいと思う。
もう一つ、小さな店だからこ客との距離感が近く、暖かさの感じるやり取りが多かったのも好印象。
お腹いっぱいの客への気配りの声掛け、食後のデザートをなじみの客向けへアレンジといった所作は、自分が身近で体感したような錯覚を生み、ビストロ・パ・マルに愛着を生む。
日常でこんなお店があったら行きつけにしたいなと思わせる、そんな魅力を感じた。
映画5:セブン
あらすじ
いかにも犯罪が起こりそうな荒れた街で、とある猟奇的殺人事件が起こる。現場には肥満男性の遺体が横たわり、そこには暴食という犯人からのメッセージが・・・。
後に7つの大罪「傲慢・強欲・嫉妬・憤怒・暴食・色欲・怠惰」の一つを示している事が分かり、次々と7つの大罪を意図する殺人事件が起こる。
それを追うのは、退職7日前のサマーセットと新米ミルズ刑事。途中犯人のアジトを特定するなど、寸前まで追い詰めるも・・・逮捕出来ず。
結果、二人の刑事は犯人に目を付けられ、残りの殺人事件に巻き込まれていく。
感想
まちがいなく、良作の部類に入る作品。良かった点を下記にまとめる。
デビット・フィンチャー作品の世界観
自分が見た彼の初作品だったが、良い意味での暗さが前面に出ていた。廃退した街の情景、過度なダーティーさが垣間見れる殺人現場、時折映る犯人の描写など、それらの映像が出るたびに緊迫感が生まれる。
鑑賞後も、上記のような場面が何度かフラッシュバックするほど、衝撃の濃い作品だった。これは、ファイト・クラブやベン・ジャミンバトンでも同様の印象を受けたので、彼独特の世界観が影響しているのだろう。
ストーリーの出来の良さ
良かったのは、ただの刑事ものとは違い、複数のエッセンスが混じりあっていた事。
具体的には、7つの大罪をモチーフにしている事と作品を通じて社会風刺を行っている事。
まず7つの大罪をモチーフにする事で、それぞれの殺人事件に意味を持たせ、連続性が出来る。これにより、尺も稼げるし、回を追うごとに刑事側には焦燥感が生まれ、視聴者の興味も掻き立てる。
もう一点は、作品を通じた社会風刺だ。
犯罪が起きても、見てみぬふりをする民衆。自分には関係ないと一線を貼る事で、余計な労力を払う事なく、少なくとも自分の身の回りの不幸を避けようとする。
心のどこかではそれがあるべき姿ではないと分かっているが、何も出来ずただただ世の中を冷めた目で傍観する。そんな民衆の代表として映し出されるのがサマセットだ。
そして、彼ら民衆の代弁者として冷めた世の中に鉄槌を加えようとするのが犯人のジョン・ドゥである。
一方、新米ミルズは血気盛んで、そんな世の中を自分の力で変えようとやる気に満ち溢れた青年。大切な家族を持ち、彼らのためにも一生けん命仕事に励む姿は人としての理想像を想い起こさせる。
そんな彼だが、世の中を叶えるどころか犯人に利用され、悲愴な結末を招いてしまう。
結末は残酷だ。
そしてこういった、善(ミルズ)を殺し悪(犯人のジョン・ドゥ)を活かすのが現代社会。それを皮肉り、こういう人物設定・ストーリーにしているように思われた。
homeとhouseの違い
ふと思ったのが、英語のhomeとhouseの意味の違い。どちらも直訳すると「家」だし、どう使い分ければ良いか釈然としなかったので調べてみた。
home【名詞】とは
- 〔人が住む場所としての〕住居、住まい、家
- 〔人が住む構造物としての〕住宅、家◆一戸建てかマンションかなどを問題とするとき。
- 〔家族が住む場所としての〕世帯、家庭
と掲載されている。ここから読み取るに、人(家族)が住んでいる所=homeとでも言えるだろうか。
house【名詞】とは
- 〔建物としての〕家、住宅、家屋
- 家族、家庭、所帯
- 一家、一族
こちらは、人が住んでいるかは関係なく建物としての住居=houseと解釈できる。
例えば、自宅について言及する場合はhome、新築の物件など建物として使う場合はhouseといった所だろうか。忘れずに覚えておきたい。
本9:サクリファイス
あらすじ
本作の題材はサイクル・ロードレースで、目新しさを感じさせる作品。
サイクル・ロードレースは、チームで活動するスポーツ。チームには、有力選手を勝たせるアシスト役がおり、先頭に立って風切り役となったり相手のペースを掻き乱す役割を担う。
主人公・白石も、チームのエース・石尾をサポートするアシスト役。陸上選手時代のトラウマを持つ彼は、檜舞台を好まずアシストが適役と信じ込む。
本作では、そんな彼が勝ち馬に乗り始め、「自身の勝利」or「チームの勝利」を天秤にかけ苦悩する姿を中心に据え、物語を展開している。
感想
自分にとってなじみのないスポーツを題材にしている点が、何より新鮮で良かった。競技の普及に繋がる、価値のある作品だと思う。
下記、気になった点について。
脇役の存在感
脇役のエース・石尾と同期・伊庭の存在感が強く、物語に良いスパイスを与えていた。
石尾は、勝ちに対して貪欲で、自分以外のエースは認めないと噂されるほど。そんな彼の本心はなかなか見えず、その薄気味悪さが話に緊張感を引き立てている。
伊庭の方も、白石の心を揺さぶる重要な存在。次期エースとも噂される実力者で、勝ちに貪欲。白石と正反対な性格だが、彼と交わる中で少なからず影響を受け、「自分が勝つ」方への気持ちの揺らぎを生む触媒として光っていた。
香乃の役割
元々陸上選手を辞めた理由は、香乃の裏切り。同時に、試合に勝つ事に対する想いも消える。そんなトラウマの元凶として登場した彼女。
途中白石との再会もあったけど、互いの関係改善や、結末の石尾事件の真相を話す事なく終焉を迎え、少し後味の悪さが残った。
結局、主人公の苦悩を揺さぶるための存在だったのかもしれない。
評価
題材 :★★★★★
ミステリー:★★★★☆
読後感 :★★★☆☆
映画4:フラワーショー
◆あらすじ
幼少期から自然を好み、調和のとれた庭作りに憧れるヒロイン・メアリー。
その想いを胸にガーデンデザイナーを志す所から物語は進んで行く。
初めは、プロ・シャーロットのアシスタントとして活動スタート。しかしシャーロットの強欲さに振り回され、良いように使われた後、最後はクビに。
失意の中、彼女はめげずに一つの目標を掲げる。「チェルシー・フラワーショー」への出場。
普通パトロンの援助があって初めて成り立つようなショーに、無謀にも0スタートした彼女だが、持ち前の情熱で少しずつ前進させる。
最終的にパトロンや園芸に必要な花・石・労働力の協力などを得て、無事ショーへの道を切り開く。そんなサクセスストーリー。
◆感想
実在の人をベースに話を書いているからか、展開はベタで主人公たちのネガティブな要素があまり見えなかった。
それでも、メアリーが庭作りの協力者を集めるために訴えかけた言葉は印象的。
確か「自然と調和しない人工物は、本来の自然を壊している。自然と調和した庭を造りチェルシー・フラワーショーだアピールする事で、調和の取れた社会を作りたい」的な事を言ってた(と思う)。
他にも、エチオピアで植林をする恋人役が出てきたりと、自然の大切さを啓蒙する役割も、この映画にはあったのかもしれない。
本8:王妃の館
◆あらすじ
倒産寸前の旅行会社が苦肉の策で出した「光」と「影」のフランスツアー。どちらも王妃の館宿泊を売りにするが、実態は詐欺まがいの二重売り。
そんなトンでも企画に参加するメンバーがまた個性派ぞろい。有名作家、詐欺師にオカマなど・・・。
ツアコンは必死に二重売りを隠すが、彼らの目は逃れられない。結果、光と影のメンバーが少しずつ繋がり、ドタバタ劇が繰り広げられる。
この話に割り込んでくるのが、十七世紀の王妃の館を題材にした話。作中作として語られ、物語に違った色を出している。
◆感想
1.読みやすさ
テンポよく物語が進み、各登場人物の動きも多いのでページの進みが早くなる。特に、ボケ役の存在が良い。オカマと独り身のドキドキのやり取りや金沢夫婦のド派手な振る舞いなど想像力を掻き立てる面白さ。
2.光と影の対比
ツアーそのもの意外にも、光と影が垣間見れる。派手な成金とこそこそ生きる盗人、有名作家をアテンドする編集と、出し抜かれた編集者。さらには、十七世紀の王妃の館、豪華絢爛な外観の裏に隠された闇など。
作中の「闇があるから光が輝きを放つ」という言葉通り、互いに共存する事で物語に調和が生まれている。
3.ポイント
一番の読み所は、十七世紀・ルイ十四世の物語だと思う。この話、読み応えがあるものの、少しシリアスで読むペースが落ちる。それを、現代の光と影ツアーのドタバタ劇と上手く絡め、読みやすく仕上げている。
すなわち、現代のツアーの話はこの物語を読ませるためのサブで主役はルイ十四世の話という事。
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本7:しんがり
◆あらすじ:実在した会社「山一證券」の経営破たんに隠された真実。
本のタイトル「しんがり」とは、いくさに敗れ敗走する部隊の最後尾で敵の進軍を防ぐ役割の事。
その言葉通り、「しんがり」メンバーが山一証券不正問題の真因を巡り権力者に疎まれながらも真実を明らかにしていく。
◆感想:真実を追求して報道するという記者出身作家のジャーナリズムと、巨大企業の不正問題を追及した「しんがり」メンバーの想いが折り合った作品。
小説なので物語のどこまでが本当の話かは知らないが、史実感を感じられる作品だった。下記に、気になった点をいくつか列挙。
・不正の徹底的な追及
闇に葬られがちな上位者の不正を明らかにしている点は、この本の主要テーマの一つだと思う。大蔵省など別組織にも一石を投じている場面は読みごたえがある。
・隠蔽のからくり
山一証券→山一エンタープライズ→ペーパーカンパニーというルートを作り、決算期の異なるペーパーカンパニー間で、飛ばしのキャッチボールを繰り返して不正を隠蔽。
監査が緩ければ、不正はバレないものなのだろうか?こうした抜け道が出来てしまうのは、ルールが不完全か最新の動向に追いついていないかだと感じた。
・不正を起こした理由
一つは、過去の栄光にすがり、法人営業を強化する方向を曲げなかった事だと思う。もう一点は、ある範囲までの危険は以上と捉えないという異常性を、企業が当たり前の事として持ってしまった事だと思う。こういった事態を避けるには、この本で言う「心の清涼感を持つ」必要があると感じた。
◆評価
史実感 :★★★★☆
テーマ :★★★★☆
読後感 :★★★★☆