読書感想・忘備録ブログ

読書・映画ログ、ときどき忘備録を書きます。

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映画1:疑惑のチャンピオン

◆あらすじ

 ツール・ド・フランスを7冠した「ランス・アームストロング」。

そんな彼のドーピング疑惑にスポットを当て、デビュー~引退後までの半生を描き、疑惑の真相を突き止めていく物語。

 

◆ポイント(※ネタバレあり)

 疑惑の真相は既知のため、個人的な注目はドーピングの話よりも、彼の意志の強さなど競技者としての優れた側面を表していた事。

 

ドーピング違反者というレッテルを貼って彼の競技人生を全否定するのではなく、一部肯定しようと試みているように見えた。

 

ドーピングすれば7冠達成出来るかと言われると言いきれないと思う。もちろん正々堂々と戦った人に示しのつく話ではないが、少なくない努力の影はあったと思う。

 

そう思うと、少しだけ同情の気持ちも感じた。

 

movie-champion.com

 

本6:僕のなかの壊れていない部分

 生きる事の意味を深く洞察した作品。

 

タイトルの反語である「僕のなかの壊れている部分」とは、世の中を冷めた感情でしか見れない彼の心を指す。

 

その背景は二つ。一つは幼少期に母親から捨てられ、自分は守るほど大切ではないと悟った事。自分自身に対して冷めた感情が芽生えた。

 

もう一つは、自分の心を常に満たしてくれる出来事(や人)がいない事。

 

死に身を摺り寄せるような出来事がなく、少し頑張れば何でも出来てしまう彼のようなタイプだと、特に心を満たしてくれる存在を見つけるのは重荷なのだと思う。

 

この繰り返しが、他者をも冷めた目で見てしまう要因に繋がったのではないだろうか。

 

一方、彼の中に残る「僕のなかの壊れていない部分」は、誰かに必要とされ、それに幸福=生きる事の存在価値を得られる事。

 

この事は、著名人の言葉を借りて何度か作中出てきたので、おそらく著者が最も伝えたい事だと思われた。

 

◆評価

読みやすさ:★★★☆☆

テーマ  :★★★★★

読後感  :★★★★☆

 

 

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本5:ベルリンの秋

 「プラハの春」の続編で、共産主義が取り巻く歴史ドラマに亮介・シルビアの物語が加わり話が進む。

 

歴史物の小説としては、国同士の協力関係や当時の政治的局面を話の中で理解出来るのでおすすめ。

 

ストーリーは、悪役?であるヘスの圧倒的な強さがとにかく際立っており見所があった。

 

圧倒的な残虐性とカリスマ性は、映画「ノー・カントリー」の殺し屋(アントン・シガー)を彷彿とさせる。上下巻に渡って話に緊張感を持たせる重要人物だったと思う。

 

マイヤー・べーナー・シュナイダーといったシタ―ジが、彼らの組織に反抗する姿も同様に際立っていた。

 

自分が所属する組織への反抗。実は、ただ母国を良くしたいとの想いから来ている事が分かり、そんなピュアな一面に感動した。

 

亮介・シルビアの物語は、混沌とした歴史の中でシーソーのように失意・喜びがループされる展開でヤキモキした。

 

ただ、この展開は前作のプラハの春と同様な気配がしたので、その点はマイナス。

 

◆評価点

読みやすさ:★★★★☆

テーマ性 :★★★☆☆

面白さ  :★★★★☆

 

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本4:世界の測量

 タイトルだけでは想像が難しい作品だが、個人的にはかなり面白い作品だった。

 

 主人公は、数学や物理学の分野で世界に功績をもたらしたガウス、コスモスなどの著で知られるフンボルトの二人。同時代に生きた彼らを繋ぐ物語。

 

一方は机上思考を繰り返す事で世界への理解を深め、もう一方は現地現物で世界の輪郭を明らかにしていく。それぞれやり方は違うけれど、未知の「世界」を明らかにしたいという欲求は同じ。だからこそ互いに惹かれ合い、小説として結びつける話が書けるのだと思う。

 

また、印象的だったのが「自然科学の原点は、自然界を理解するためにある」という事。世界にはまだ未知な事象が散在し、大抵の人々が地球の裏側を全く知らない状態で生きていた。そんな世界を明らかにするために、活動を続けている。

 

科学を学ぶ本質は、まさにこの点だと感じた。忘れずに心に留めておきたい。

 

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本3:プラハの春

 1968年にチェコ・スロバキアで起きた「プラハの春」を題材にした作品。当時の歴史が、著者(元外交)の実体験ベースに描かれている。

 

印象的だったのは、ソ連による軍事介入の描写。住み慣れた土地に戦車が侵入し、威嚇発砲の銃が鳴り響く情景がリアルに表現され、市民が苦しむ姿や対抗する姿が想像された。

 

また、共産国と対立している際のスボボダ大統領とドゥプチェク第一書記の意見の違いもストーリーとして興味深い。

 

◆それぞれの考え

  • スボボダ大統領:市民の犠牲を考慮し、自分達の意志を押し殺して共産国に従う
  • ドゥプチェク第一書記:共産国と対立する意志を貫き最後まで屈せず戦う

 

どちらにも一理あり、一方の意見を選択するのは難しい。

 

スボボダ大統領の考えに乗れば、犠牲を最小限に次の機会にチャンスを持ち越す事が出来る。

 

ドゥプチェク第一書記の考えに乗れば、自分達の意志を認めてもらえる可能性が残る。

 

こういった時は、自分の信念に従って選択し、結末が白・黒に関わらず運命だとありのままに受け止める事が大事だと感じた。

 

歴史の一端に必ずある、こういった局面を知れるのは歴史小説の醍醐味だと思う。

 

 

 

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本2:空飛ぶタイヤ上

◇あらすじ

 トラックのタイヤ脱落事故が起こり、整備不良を疑われ窮地に立たされる赤松運送。

しかし、その影にはそもそもトラックに構造的欠陥がある事が見え始め、隠蔽を試みる大企業=ホープ自動車。

 

そんな大企業に挑む赤松運送 VS. ホープ自動車の話を中心に、社内での隠蔽 VS. 公開の争いや、銀行との融資を巡る戦いなどが繰り広げられている。

 

◇感想:

 ホープ自動車で起こる権力争いや、自分の立ち位置を良くしたり周囲の損得に従って仕事をする品質保証部の人達がリアルに感じた。

 

仕事の本来の目的は、英里子が言うようにお客様のためのモノ作りが出来ているか?という問いかけを第一に持つ事だと思う。

 

 本作では、このアンチテーゼとして出世ばかり気にする上層部やグループの親玉を敵役とし、部下やグループ会社の社員が真実を暴こうとするシーンを描いているように感じた。

 

また、こういった描写は、権力に屈せず立ち向かう姿として憧れも代弁しており、その点が読者に共感をもたらしている要因だと感じた。

 

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本1:アヘン王国潜入記

◇あらすじ:

 日本人にとって未開の地「ゴールデントライアングル」。中でもアヘン栽培が盛んなワ州へ行き、現地体験をする著者。

 

ワ州の村には、アヘン栽培をする村人達の姿・独特な風習やアヘンに取り巻く人達の世界が見える。

 

例えば、日本から持ち込んだカメラがワ州では珍重で写真を撮ると喜ばれるとか。

 そんな、遠い日本からは知る由もない、リアルな一面が分かる貴重なお話。

 

◇感想:

 著者の「一本一本の木を触って樹脂の手触りを感じ、花の匂いや枝葉がつくる日陰の心地よさを知りたかった。」という言葉が印象的。

 

アヘン栽培者で想像されるのは、禁止薬物に関与する危ない一員というイメージ。しかし、本書に登場するワ州の村人はそんな物とは無縁な普通の農家の人々。

 

彼らにとって「アヘン栽培」は、ひとえに生きるための手段。お米やジャガイモを栽培するようにアヘンを栽培し、その対価として日々の生活を成立させている。

 

こういった、現地で彼らの目線で生きたからこそ分かる形のある真実を、この本は教えてくれている。そういった意味で、一見の価値がある本。

 

 

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